異国から来た娘たち

 あれは、楽天ゴールデンイーグルスが交流戦で巨人に3タテを食らわせ、バレーボール女子がネイションズリーグでカナダに惜敗した、それだけでも忘れがたい日の夕方だった。
法事があったため仕事を休み、午後に家事を済ませ、あと幾つかの用をこなしてから、急いでK場さんの待つ球場へ向かわねば!と気をはやらせて泉中央駅に向かう途中で、私は彼女たちに出会ってしまった。
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 長い髪を素直に背に滑らせ、私たちより少しだけ濃い肌の色をした華奢な娘さん三人が、顔いっぱいに困惑の表情を浮かべて駆け寄ってきた。手にはそれぞれ白い紙を何枚か持っている。一瞬何かの勧誘かと思ったが、「おしえてほしいのです」「いそいでいますか?」と片言の日本語で話しかけてくる様子に、”迷ったんだなぁ”と察した。

 私は一見  人のよさそうなタヌキ顔🦝 若い時からよく道を聞かれます・・・が、①方向音痴 ②地図が読めない ③場所の説明が不得手と、これまであまり役に立ってあげたという思い出がない⤵  それどころか、「間違っちゃたぁ😖」と悔やんでしまったこともある。できることなら、その辺の別の人へ・・・と思うものの、そばに人がいない。
 ”困ったなぁ”と思いながら、差し出された1枚目を見ると、泉中央駅内の通路図。2枚目は英語だったから無視して、3枚目には「ヤマト面接17時」の文字。時計を見るともう16時45分を過ぎようとしてる。彼女たちは駅の反対側に出てしまってウロウロしていたようだ。
「仕事の面接なの?」と聞くと三人が揃ってウンウンとうなづく。二十歳に満たないように見えるその子たちの後ろに、海の向こうの母たちの姿が見える気がした。もし我が娘が他国で同じ立場にあったとしたら・・・。
「おいで、with me!」と訳の分からない合図を送って、一緒に駆け出した。泉中央駅に戻って、地下通路の三番出口を目指したが、おばさんには体力がない💦 走りながら一番しっかりしていそうな子に説明して、二つ先の左の階段を駆け上がってすぐだと説明した。「私をおいて駆けていけ!」と、急げ急げとはっぱをかけた。肩で息をしながら時計を見れば5分前。多分ギリギリ間に合わない・・・

 その日中、そして次の日も、そして今日に至るまで彼女たちのことが気になっている。「もし駅に戻るルートではなく、地上を走ったならもう少し早かったのではないか」「もっと早く場所が限定できていたら・・・」「少し遅くても受け付けてもらえただろうか」「きっと私が面接官なら時間内に来なかった彼女たちを採用しないだろう」云々かんぬん。

 我が娘が採用通知を受け取ったとき、駅のホームから電話をくれたことを思い出す。
「ママ、嬉しくて吐きそうだ!!」と彼女は言った。「良かったわねー。でも吐くのはトイレまで我慢しなさい。」と笑いながら応えた。幸せな思い出。
 異国で若い娘たちが職を見つけるのは大変なことだろう。母はどんなに心配しているだろう。三人とも素直な瞳をしていた。この国を選んでくれたのだから、幸せになって欲しい。もう一度会ってもお互いにわからないだろうけれど、私はここしばらくないほどに人を応援している。彼女たちを応援している。
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