亀の甲より年の功

 数週間前のことになるが、一人の青年が来廊して「絵を売りたいのだが、方法がわからなくて画廊を見て回っている」とおっしゃった。
聞けば 自分が描いているわけではなく、とても気に入っている画家志望の方がいて、”売ってあげたい❗”とのこと。かといって、彼は絵が好きなわけでも画商になりたいわけでもないらしい。私は、”売れる”と思っていることに驚いた👀
 そういえば以前は「画廊に勤めたいのですが・・・」とか「画廊を始めるにはどうしたらよいでしょうか?」とか、年に一度か二度は誰かが訪ねてきたものだったが、とんとそんな話が無くなってどのくらい経っただろう。

 美術品を扱うのは素敵な仕事だ。30年以上続けていても未だに新しい作品が入ってくればワクワクする。ただし、ワクワクが失敗にならないためには、かなりの経験と知識と信頼関係が必要だ。
残念ながら それを一朝一夕に得ることはかなわないので、長い勉強期間が必要となる。昔はどんな仕事にも下積み時代があるのが当たり前だったように思うが、今は違うらしい。週に一度しかない休日を美術館や古本屋を回って過ごしたなんて言うと、今の若い世代には嫌われてしまうらしい😞

 何でもネットでサクサク調べられると思っている人も多いようだが、こと専門的な事柄に関しては未だに笑ってしまうほど間違いが多いし、該当するデータが見つからない。分厚い画集や資料本をめくっていく方が安心できる。(重い画集を棚から指先で取り出そうとして、何度爪をはいだだろう・・・ 痛かったなぁ・・・)

 最近、欲しいと思う J.ミロの版画を見つけたが、何か引っかかるものがあって止めた。後で画集を引っ張り出してサインの確認をしたら少し違っていて、そこに違和感を感じたのだと分かった。きっと本物なんだろうが、危うきに近寄らず・・・とした。(K場さんにすごく褒めてもらった
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 若い頃、教えを乞うた業者さんたちはみな引退してしまったが、たまに電話をくださる方がいらっしゃる。最近も、これ幸いと他愛もない話のついでに、古い藤田嗣治の作品の話を伺った。「流石ですねぇ」と相槌を打ったら「亀の甲より年の功さ」と笑っていらっしゃった。



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