手離す人、手渡された人


 「あなたの画廊には古い絵が多いですよね。現代作家の作品はお好みではないのですか?」と聞かれて困ることがあります。そんなことはないのですが、出会った中で心に響く作品を集めてきたらこうなったというか… 自然とそうした分野が得意になったというか…

ただ、古いのに大切にされて美しさを保っている作品に出会うと、心底嬉しい気持ちになりますし、ちょっぴり傷んでいても長い年月を経てここにたどり着いたと思うと、できるだけ良い状態に戻して新たに愛してくれる方に手渡したいと気合も入るのです

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 久しぶりにB.ビュッフェの1966年「Herbier」花の図柄16点シリーズを、全作品が収められている箱ごと入手致しました フランソワーズ・サガンの小説の表紙にもなっている作品がいくつかあって とても人気がありますから、良い状態であって欲しいと願っておりましたが・・・ 一枚ダリアだけが変色しておりました

汚れや日焼けではなく、全体がこんがりと燻製されたチーズのように色が変わってしまっているのです。どうやらこの一枚だけをずっと大切に飾っていたらしいのですが、手離すときに額から外して仲間と一緒に箱に収めたのでしょう。


 普段なら”傷みもの”としてしまうのですが、このダリアにはどことなく風格と言うか「愛されて育ったおっとりした娘さん」的な感じが伝わってきます。思い切ってクラシック調のとても良い額に、ベージュの布マット、いぶした金の刃先なんかもつけて、仲間の誰よりもお金と手間をかけて額装してみたら、あらあらなかなか良い感じ。さすがにお値段はかなり安くなりますが、うちのお客様なら誰かがこのムードを愛してくれるだろうと、優しい天使の降臨を待つことにしました。


 絵に限らず、前の持ち主の愛情が感じられる物は、古くても素敵だと思います。先日K場さんが突然、「今日は全員おさがりだねー」と笑いだしました。よく見るとK場さんもE子ちゃんもN田さんも、元は私のワンピースを着てくれています。そして私もS様からいただいたワンピースを着ておりました。

 先日、普段は東京にお住まいで時々仙台にいらっしゃるF様から電話がありました。ずっと取っておかれた紬の反物を私用に縫ってくださるとのこと。嬉しい限りです。縫ってまでくださるのだから、大事にしてこられた反物だろうなぁ。”この人になら手渡してもいいか!”と思われたのなら、とても光栄なことだと思うのです。


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