版画の贋作に思うこと Part2

 思えば昔から贋作はたくさんありました。画商さんのもっとも大事なお仕事の一つが 真贋を見抜くことになりますが、これは一朝一夕というわけにはまいりません。たくさんの真作を取り扱った経験とデータの蓄積が必要です。

 キャンバスや紙の種類、絵の具・インクの種類、様々なマチエールの違いを実際に目で見て触って、さらに画集やレゾネで確かめて、時にはルーペで滲みや重なりを調べて、キャンバス裏の記述や紙の透かしも見て、不安を感じれば同業者に意見を求めて、取るべき証明書を取って・・・と、地道に重ねた経験が30年くらい経つと、やっと役に立ってくるのです

 それでも 何でも真贋がわかるわけではなく、30年真面目にお仕事をしてきて 触れてきたものは、太平洋のように広くて深い美術界の「大海の一滴」に過ぎないのでしょう。

 美術品の贋作というものは、美術品にかかわっている者にしか作れません。販売ルートも独特ですから、業界にも精通している人でないと作れないし、作ったところで売れないものです。

 今回の贋作を作ってしまった奈良の工房も、もともと片岡球子さんら御大がたの真作版画を手掛けてきた経験があるらしいのです。業者でも 額の上からちょいと見ただけでは、なかなか判断が難しかったと思います。

 今回の事件のせいで、皆様きっとしばらくは どこで絵を見ても「これって本物かしらん」とちょっぴり疑惑の影を感じずにはいられないと思うのですが、同業者の方々は皆さん 絵が好きで真面目にお仕事に取り組んでおりますよ。

こんな騒ぎが一日も早く終わって、”心ふるわす美しいもの”との出会いを心から楽しんでほしいものです

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