版画の贋作に思うこと Part1

 アイズピリの版画シートが何枚か届きました。その中に見たことのない作品が3枚ほど。紙も少し端っこが黄ばんでいて古そう。30年以上この仕事をしてまいりましたが、未だ手にしたことのない作品に触れる喜び カラフルな版画シートに、これは素敵 こっちも綺麗とスタッフたちも心が浮き立つようです。

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    作家がまだ版画制作に慣れていない頃の古い作品は、線と色がずれていたり、端正とは言えない雑味が感じられたりしますが、その分 構図が大胆で線がのびやかだったりして、当店では人気があります。

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   ビュッフェは、鋭い黒線が人気の画家ですが、初期の銅版画シリーズ(純粋の探求)は、これでもか これでもかと丹念に細い線が刻まれていて、若さゆえのためらいのようなものが感じられて 素敵

 ガントナーは、とても抒情的で美しいリトグラフを作りましたが、油彩や水彩に比べて 版画は手間がかかる上に 思うようにできないとの理由で、あまりお作りにならなかったとか・・・

 シャガールやピカソは、その思うようにいかない偶然性が楽しくて、亡くなる頃まで 思いのままに膨大な作品を残しました。(ピカソの晩年の作品は、エロティックでとても娘には見せられそうにありませんが・・・)
そう❗ 版画制作は難しいのです 

 日本には特殊な歴史があって、御大になられると 元絵(「原画」と言うそうな)をもとに工房で職人さんたちに版画に制作してもらい、仕上がったものにサインや落款を押すだけで自作版画としてまかり通るようになっております。

 若い頃、恐れを知らぬ私は、先輩の画商さんの前で「職人さんに作ってもらってサインだけして デパートに高額に並んでいるのを見て、〇〇先生はお恥ずかしくはないのでしょうか?」と聞いて、「・・・・」「この仕組みは日本の文化だ💢」「そんなことを口に出して言ってはいけないよ」とキツーく叱られたものでした。

 ここ数日、マスコミやネットを賑わせ、同業者たちを不安に陥れている 御大がたの版画贋作事件は、そうした日本独自の版画制作の仕方と価格との不釣り合いが、図らずも露見してしまったことになります。

10年にわたって、日本の大手デパートの絵画展で 燦然ときらめいていた100万円以上(作品によっては300万円)の御大の作品のいくつかが、実は贋作だったと言うのですから  それも作った方が800枚ほどあると言ってしまったのですから大騒ぎにもなります。

 それにしたって、どれも高額で代表作品であるわけですから、出来が悪かったらすぐに「変だなぁ??」とバレてしまうはず。10年も問題にならなかったのは、作り手がプロだった。そう、版画を作って40年のベテランだったからでしょう。

もともと真作とされるものも、工房が違うだけで、職人さんらが手がけたもの。今回の制作者(奈良の工房の方)は1枚15,000円で引き受けたそうですが、真作を作った正規の工房はお幾らだったのでしょう…

 この先、この事件がどんなふうに推移していくのか興味を持って見てまいりたいです。

あっまるで他人事のようでしたが、そうそう、私も画商さんでした。気を引き締めまする

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