敏腕営業部長

 スポットライトギャラリーには、隠れた凄腕の営業部長が存在する。
その名もK枝さん。その神業に近い話術と 決してあきらめない営業努力には、本当にいつも惚れ惚れする

 K枝さんは、以前仙台に住んでいらっしゃったが、現在はK市にあるご主人の実家を 素敵に改築されて お二人で暮らしている。そして時々スポットライトギャラリーに降臨し、ひと働きしたのち 風のように帰ってゆくのだ。

 彼女は お客様の好みと状況を完全に把握し、「これは」と ひたと止まったお客様の視線と、キラリと光った一瞬の目の輝きを決して見逃さない

 K枝さんが静かにお客様に語りかけ スイッチが入ったら、私はできるだけ視線を合わせないようにし、他のスタッフたちは全力で気配を消す。決してK枝さんの邪魔をしてはいけない。あとは任せておけばよいのだ。

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 それはいつも音楽のように静かに始まる。
ー いかに その作家が素晴らしく、その作品が特に魅力的かを  流れるせせらぎのように語り始め(導入)
ー これは一期一会の出会いである、なんて幸せなこと、二度とこうした出会いはないかもしれない、いや決してない!(説得)
「もし これが我が家のコレクションになったら・・・ 飾るのはあそこかしら、あっ、あの絵の隣でも素敵 ほら、想像してみて(洗脳)
ー 今 手に入れなかったらきっと後悔する!もうきっと出会えない、これは絶対に買うしかない‼(ちょっと脅し)
「どう?お父さん、素敵でしょう?これは絶対いい!やっぱり〇〇〇〇はいいよねー。お父さん大好きだものねー。ほら、近くでよく見て!」(一気にたたみかける)

 そうしているうちにご主人が一言でも「あぁ、ずっと見ていられるなぁ…」などと つぶやこうものなら、夫婦ならではの間合一発「じゃあ、これ包んでください。持って帰ります」と菩薩の微笑みを浮かべて私に向き直るのだ。簡単に書いたが、この間30分~1時間、K枝さんは営業に全集中しているのだ。

 彼女の一声で、それまで気配を消していたスタッフたちがにわかに動き出し、箱を探し 資料を貼り、気がつけば大きな荷物を抱えたご主人とK枝さんの後姿を、皆で手を振って見送っているのであります

 私が唯一喋らなくてもよいお客様方であられますが、残念ながらK枝さんはご自分の夫にしか営業してくださらない。もし彼女が勤めてくださったら、画廊の売り上げは何倍にもなっていることだろう

 でも、長くお付き合いしてきた私は知っている。K枝さんはこのところ、ご自分のお好みの絵は滅多に選んでいない。特にご主人様がちょっぴりご病気をされて入院した昨年からは、ご主人が大好きな作家と作品に限られている。

大好きだった二人での海外旅行は、コロナ禍も重なり、もうしばらくはお預けだろう。
{でもお父さん、まだまだ二人での生活を楽しみましょう ほら、お父さんの好きな絵を飾って、レコードをかけて、集めてきた美しいカップでコーヒーをいただきましょう。早く元気になってね} という心の声が聞こえてくるようだ。

 ご自宅はもう ギャラリーのようにたくさんの絵で溢れている。季節ごとに絵を掛け替え、お庭で育てた花を飾って、古く懐かしいレコードの曲が流れている。うちのスタッフは皆、スポットライトギャラリーの支店ですねと笑っている

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