初めてのお客様
私が言うのも何ですが、画廊というのは初めての方にとって、とても入りにくい場所であるらしいです。まして当店のように雑居ビルの中にあったりすると、①必要に迫られて絵を探している、②よっぽど絵が好きで、のぞいてみたい誘惑にあらがえない…のどちらかの場合が多いように見受けられます。
少し不安げな様子で店の前をウロウロ。「よろしかったらどうぞ
」とお声がけしてにっこり微笑んだのを確認しながら入ってこられる方も少なくありません。

常に500点以上を在庫していることが自慢ではありますが、とは言っても私共の好みに限られてしまいますので、せっかく場所をお調べになって来廊なさっても、「違うなぁ…」とがっかりなさって帰られる方も当然ながら いらっしゃられるでしょう。はっきり「うん、良いのないね
」とか、「好みじゃない
」とおっしゃられる方もいらっしゃいます。それはしょうがないことです。
10月のはじめ、初めてお見かけするお客様が不安げに入っていらっしゃいました。それでも開口一番、正面の長谷川潔の絵を見つめて、「素敵ですね~
」とおっしゃられたのです。「看板に惹かれて入ってきちゃいましたが、実は大阪から仕事で来ていて… すみません、少し時間があったものですから…」とおっしゃりながらも、目は正面の狐に釘づけ
飾られているものを全部見るふうでもなく、好みの作品をじーっと見つめて「あぁ、いいですね
」「素敵だなぁ
」「いつか欲しいなぁ」




我が子を褒められて嬉しくない母親はおりません。まして、私は身びいき。「どうぞ、どうぞ
」と席をすすめ、お茶を出し、ついでにお菓子も出し、たくさんお話も致しました。帰り際に「仕事で東北に来るのが楽しみになりました。また参ります
」とおっしゃっていかれました。画廊と言えども、”売ってなんぼ”の商いには違いないのですが、褒めていただけるのはすごーく気分が良いものなのです。(K場さん、ゴメンね
次はちゃんとセールスするからね
)




ずいぶん前にこんなことがありました。とても身なりの良いご婦人がいらして、「○○デパートや○○画廊に比べて、ここは感動するものが何一つないわねぇ」とハッキリしっかりおっしゃり、それでも帰るでもなく、他店から購入された自分のコレクションがいかに素晴らしいかを語り続けるのです。そして最後に「もっと時代の流れを勉強した方がいいんじゃない?」とのたまわれた。
さすがに足の先から血が黒くたぎってくるのを感じましたが、スタッフたちが”我慢して 耐えて耐えて
”と必死で目で訴えかけてくる... 人には色々なお考えがあって然るべきなのですが、心の中だけでつぶやいて欲しかったです。
そのご婦人が帰られた後、石の猿と化している私の横を、いつも冷静なE子ちゃんが「お塩しますね
」と一言。小皿にお塩を盛って扉に向かっていきました。一気に肩から力が抜けて笑ったのを覚えています


時代に乗れるものなら乗ってみたい。けれど、それで心底愛する古く美しい物たちや、古き所作を捨てる気は毛頭ないのです。心に迷いや不安が生じた時は、こんな画廊に繰り返し来てくださる方々のお顔を思い浮かべながら、「やっぱり変わらずにいよーっと」と思うのであります
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